IgEの架橋活性を指標とする新規アレルギー試験法の開発
THU Innovations
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IgEの架橋活性を指標とする
新規アレルギー試験法の開発

  • アレルギー試験法
  • EXiLE法
  • IgE
  • 培養マスト細胞株

Haruyo
Akiyama

秋山 晴代准教授

薬学科

東京大学医科学研究所 研究拠点形成特任研究員、神奈川県衛生研究所理化学部 主任研究員などを歴任し、現在に至る。内科系臨床医学、薬学、基礎医学を研究分野とし、主に「膠原病・アレルギー内科学」、「生物系薬学」などを研究項目としている。これまで、幹細胞の骨髄内再生機構と末梢への動員機序解明、アレルギー発症機構の解明、アレルギー試験法の開発などを行う。

患者負担が少なく信頼性の高い試験法を新たなアプローチで開発

現在、日本では約2人に1人が何らかのアレルギー疾患を持つと言われている。その症状は、食物アレルギー、気管支喘息、アレルギー性鼻炎など多岐に渡り、アナフィラキシーショックなど命に関わる症状が出現することも。アレルギー疾患は様々な要因によって発症し、症状の増悪や寛解を繰り返すことから、生活の質が著しく損なわれることがあり、対策が求められている。
例えば、アレルゲンの交差反応性の有無を明確に判断できれば、必要以上に行動の制約を受けることなく生活を送ることができる。そのためには患者のアレルゲンへの応答性を適切に評価できるアレルギー試験法が重要である。しかし、現在臨床で一般的に用いられているいくつかのアレルギー試験法はそれぞれに一長一短があるという状況。秋山 晴代 准教授はこうした課題を解決するために、患者負担が少なく信頼性の高い試験法の開発を行っている。

具体的には、国立医薬品食品衛生研究所との共同研究による、同研究所で開発されたアレルギー試験法EXiLE法を用いた新規試験法の開発。EXiLE法は、ヒトの高親和性IgE受容体(FcεRI)を発現させた培養マスト細胞株(RS-ATL8)を、アレルギー患者の血清(IgE)で感作し、様々な抗原の添加によるRS-ATL8の活性化をルシフェラーゼアッセイにより検出する手法である。マスト細胞の活性化に必要なIgEの「架橋」を捉えるため生理的で感度の高い評価法である上、患者負担も少ない。この方法は様々なアレルギー疾患の研究に応用が可能である。例えば、魚肉アレルギーを持つ特定の小児が満足に食べることのできる調理法を探す目的で、魚肉低アレルゲン化の評価系を開発した。

「魚肉アレルギーのため限定的な缶詰しか食べたことのない子供が、この評価系を活用して明らかになった条件で調理した様々な種類の魚を食べることができた時は、研究をしていて初めて感激しました」(秋山 准教授)

優れた新規細胞株を用いた新展開、そして“セルフリー型”アレルギー試験法も視野に

続いて秋山 准教授は、RS-ATL8細胞に代わる機能的な培養細胞を新たに作製することを試みた。その結果、ヒトとラットの遺伝子配列を融合させたFcεRIα鎖を発現し、かつ転写因子の活性化に伴ってレポーター分子が発現する培養マスト細胞株(HuRa-40)の作製に成功。既存のRS-ATL8を用いたEXiLE法に比べ高い応答性を示すことが明らかになっており、また使用に制約がないためにEXiLE法以上に多くの展開・応用が期待できる。

「今後は、迅速に創薬候補化合物を検索する技術や評価系の構築、ひいてはドラッグ・リポジショニング(既存薬再開発)の推進が非常に重要になると考えています。その点で今回開発したHuRa-40細胞は、抗原特異的IgEのセカンドスクリーニングやハイスループットなドラッグスクリーニングに利用可能なので、様々な研究のツールとなる可能性があり期待が持てるでしょう。さらに、“架橋”を指標とした新しい“セルフリー型”アレルギー試験法の開発も視野に、検討を重ねていく予定です」(秋山 准教授)