在宅生活ニーズの把握と多職種連携のための「見取り図」活用
THU Innovations
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在宅生活ニーズの把握と
多職種連携のための「見取り図」活用

  • 見取り図
  • 地域包括ケアシステム
  • 在宅生活ニーズ
  • 多職種連携

Keiko
Kudo

工藤 恵子教授

看護学科

女子栄養大学大学院栄養学研究科 保健学専攻博士後期課程 修了。研究分野は看護学で、主な研究項目は公衆衛生看護。これまで地域における多職種連携、保健師の現任教育などを行う。現在は、在宅生活ニーズを把握するためのツールの一つとして、住まいの「見取り図」の活用について研究している。

地域包括ケアシステムにおける支援策の広がりにつながる可能性を模索

高齢者が、可能な限り住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域包括ケアシステムの構築が2025年を目処に進められている。地域で生活するためには、基盤となる住まいや住まい方の検討が不可欠であり、支援者である専門職者が適切な支援を行うためには、本人や家族のニーズを把握することが重要だ。それをどのように把握し、共有するにはどうすればいいのかを考えたときに、一つのツールとして提案されたのが「見取り図」である。工藤 恵子 教授は、この見取り図を活用した研究を行っている。

「見取り図は住宅平面図に生活の痕跡(家具やモノ、動線)を記載したスケッチです。この見取り図を活用することで、住環境に関連する情報共有が短時間で具体的に行うことが可能となります。さらに、そこで生活する人々の想像力を喚起させるため、支援策の広がりにもつながる可能性があるのです」(工藤 教授)

見取り図活用に関しては、これまで以下のような課題で研究調査が進められてきた。最初は、「多職種連携や当事者参加による見取り図を活用した在宅生活ニーズの把握方法」。この調査の結果、見取り図は情報共有のツールとして特に優れていることが確認された一方で、描き方がわからないという意見が多かったため、描き方を記したパンフレットが公表された。次に、「在宅生活ニーズ把握を目的とした多職種連携のための見取り図活用方法の開発」。活用を推進するための教材DVDを制作し、調査を実施。基礎教育や経験の浅い現任者の教育などで見取り図を活用する提案がなされた。現在取り組んでいるのは「在宅生活ニーズの把握と多職種連携のための見取り図の活用効果の具体的検証」。見取り図を活用した際の実際の効果を具体的に検証していくものだが、コロナ禍でフィールド調査が十分にできない状況のため、オンラインでも活用できる教材の制作など、新たな課題に取り組むべく検討が進められている。

デジタル化・オンライン化が進む今、見取り図の未来を考える

昨今、病院のカルテや行政機関の書類などがデジタル化されている。コロナ禍において、医療機関の受診や相談、会議もオンライン化が加速的に進んだ。こうした現状の中では、生活ニーズのアセスメントのためになぜ家庭訪問が必要なのか、訪問によって何が分かるのか、見取り図は手描きである必要があるのかなど、改めて考えていく必要がある。

「研究に取り組むときに思い起こすのは、『いきなり山頂に到達するのではなく、まずは1歩、少し高いところに上ることである。そうすれば視界が少し開け、今まで見えなかったものが見えるようになる。そこを基盤に、また1歩、進むことができる。研究とはそのような歩みを続けることである』という恩師の言葉。実際は小さな1歩であっても、進むためには大きな勇気が必要で、その継続には継続した努力が不可欠であることを日々実感しています」(工藤 教授)