Tatsuro
Maeda
前田 竜郎教授
健康栄養学科
千葉大学大学院 園芸学研究科 農芸化学修士課程 修了。その後、大手食品会社に入社し、小麦・小麦粉の品質特性に関する基礎研究から商品開発まで携わる。30年以上にわたって研究職に従事したのち、2019年4月、現職に就任。「ヒトの五感を数値化する」をテーマに、様々な食品の研究を多角的に行っている。
前田 竜郎教授
健康栄養学科
千葉大学大学院 園芸学研究科 農芸化学修士課程 修了。その後、大手食品会社に入社し、小麦・小麦粉の品質特性に関する基礎研究から商品開発まで携わる。30年以上にわたって研究職に従事したのち、2019年4月、現職に就任。「ヒトの五感を数値化する」をテーマに、様々な食品の研究を多角的に行っている。
食品の「おいしさの評価」は、一般的に官能試験で行われる。しかし製品によって差異が生じるため、科学的根拠(エビデンス)に基づく客観的な評価手法が求められてきた。そのため食品業界では、嗅覚・味覚・触覚・視覚・聴覚などヒトの五感が知覚する、におい(香り)・呈味※・食感・外観(色調)・音響を対象に、これまでにも様々な研究を実施し、おいしさを構成する品質特性を分析してきた。
※甘味・塩味・酸味・苦味・うま味など、食品の味。
そうした積み重ねの結果、味、食感、色においては、比較的正確なデータを測る装置・技術が確立されている。しかし、においについては研究が遅れており、その成分全体の数%程度しか検出できていない。主な理由としては、①食品のにおいが非常に多岐にわたること ②においを網羅的に捕獲する方法が確立されていないこと ③網羅的に捕獲したにおいを網羅的に分析できる装置がほとんどないことが挙げられる。
「長年にわたり、食品のにおいの全容を解明するには『においの網羅的解析』を行わなければならないと考えてきました。しかし技術的に、従来型の1D GC分析(シングルディメンジョン)では、においの分離が十分ではありませんでした。そのため、これらを解析する手段として2D GC分析(マルチディメンジョン)による網羅的解析を実現することができれば、食品のにおいのプロファイルが可能になると考えました」(前田 教授)
前田 教授は現在、「ノンターゲティングオミクス」という新たな領域で研究を行っている。これは、においを網羅的解析する手法で、2D GC分析が可能な装置の導入によって実現した。炊飯米、蕎麦、穀物ミルク、伝統調味料などをはじめ様々な食品の解析が進められるなかで、特に和食の基本となる出汁(だし)のにおいの解明に力が注がれている。
和食は2013年にユネスコ無形文化遺産に登録されたものの、実はそのおいしさは科学的に定義されていない。そこで、最先端の分析技術であるノンターゲティングオミクスを駆使して出汁のにおいが持つ潜在的なパフォーマンスを明らかにできれば、「日本食のおいしさとは何か」という問いに対してひとつの解答が得られるとともに、出汁のプロファイルを通じてより最適なフレーバーペアリングを提案することが可能になる。
今後の展望としては、ノンターゲティングオミクスで得られた分析データを新たな評価技術(ビッグデータ解析やインフォマティクス)によって解析・評価するとともに、学内の多職種連携や産官学での共同研究などを推し進めることで、食品分野だけにとどまらず、健康分野や医療分野でも活用できるような未来を描いている。
「ヒトが進化してきた過程において、食べることはもっとも根源的な部分に関わるため、おいしさの品質特性を解明することは非常に重要です。そうした意味でも、ノンターゲティングオミクスによるにおいの網羅的解析は、健康的な食生活の支援を通じてQOL向上に寄与できるだけでなく、社会に大きな付加価値を生み出す研究だと考えています」(前田 教授)