世界遺産と防災:歴史的都市におけるレジリエントな空間と観光
THU Innovations
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世界遺産と防災:歴史的都市における
レジリエントな空間と観光

  • 世界遺産
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Tomoko
Kano

狩野 朋子教授

観光経営学科

東京大学大学院工学系研究科 建築学専攻博士課程 修了。学士(工学)、修士(工学)、博士(工学)。研究分野は建築学(都市計画・建築計画)、観光学(地域・観光まちづくり)。
「世界遺産と防災」などを主なテーマとして、まちや住居群を対象とした空間研究と提案を行っている。

異分野との協働を通して、日常に寄り添った減災・防災計画を提案

近年、地震のほか、気候変動による災害で、毎年のように世界遺産の被災を目の当たりにしている。私たちは、人々のよりどころとして地域社会を支えてきたこれらの文化遺産を、次の世代につなげていかなければならない。そこで狩野 教授は、歴史的なまちであることを生かし、世界遺産エリア(=観光地)におけるリスクマネージメントを考える研究を進めている。

「まちや住居群の減災・防災を考えるとき、空間つまり“ハード”からのみでは、限定的な見方になってしまうと常々感じていました。人々の生活や習慣などの“ソフト”にも着目しないと、計画が地域に浸透せずに、ひとり歩きしてしまうという感覚がつきまとっていたのです。そもそも歴史的なまちには、数々の自然災害を乗り越えてきた知恵が詰まっています。そのため、異分野との協働を通して、歴史や文化、生活や生業をみて、人々に継承されてきた知恵をひろい集めながら空間をとらえることができれば、より日常に寄り添った減災・防災計画を提案できるのではないかと考えています」(狩野 教授)

「世界遺産と防災:アジアにおけるヘリテージツーリズムの持続的発展のために(科研・基盤研究B、2016年4月~2019年3月)」は、狩野 教授が建築学と人類学・観光学の研究者と協働で実施した研究である。3年間で、日本、インドネシア、中国、ネパール、トルコ等で現地調査を行い、自然災害に対する取り組みや乗り越えていくための知恵、防災意識の違い、防災計画の課題などを共有した。最終年にはトルコの世界遺産ベルガマにおいて、市役所ユネスコ課と共同主催で、専門家会議と住民ワークショップを実現。研究成果は複数の国際会議で発表され、2022年9月には書籍『文化遺産と防災のレッスン:レジリエントな観光のために』も刊行した。

「副題にあるとおり、レジリエントな観光を軸に、建築学と文化人類学の専門家の先生たちに執筆いただきました。そのため、多角的な視点で書かれているのがこの本の特長です。また、講義用のテキストとして活用できるように、全15章の各章に練習問題をつくり、学生たちの理解がより深まるような構成にしています」(狩野 教授)

海外研究者や専門家と新たな防災教育アプリをデザインし、
コミュニティの拠点となっている空間を未来につなげていく

現在「世界遺産エリアにおける公共空間の防災対策(科研・基盤研究C、2020年4月~2024年3月)」に取り組んでいる。

「コロナ禍で、2020年度はトルコを訪問できませんでした。しかし、現地の研究パートナーや協力者、そしてベルガマ市役所の協力で、世界遺産エリアの旧市街に暮らす150軒の住民の方に、ヒアリング調査を実施。その分析結果から、住民と行政のリスク認識のギャップを埋めて、住民目線の防災計画を提案したいと思います」

また一方で、2021年9月から日本学術振興会からの受託研究として、新たな研究がスタート。トルコの企業や大学のほか、立命館大学、東京大学、文京学院大学など日本国内の研究者・専門家とともに二国間交流事業共同研究「イスタンブール歴史地区の防災強化に向けた共助体制構築とITツールの効果的活用実証」に取り組んでいる。これは、東京都(文京区)とイスタンブールで実施したJICAプロジェクトをベースとするもので、具体的な防災教育アプリをデザインし、まちの防災力を高めることを目的としたプロジェクト。2022年8月にはイスタンブールのベイオール区にてワークショップを開催。住民、区役所職員、現地大学の教員・学生などが参加し、災害図上訓練(Disaster Imagination Game)を実施した。

「防災を身近なものに感じてほしいので、楽しみながら学べるアプリ開発や、ゲーム感覚で防災対策を考えられるプログラムなどを通して、共助の意識を高められるように工夫しています。2023年2月6日には、トルコ・シリア大地震が起きてしまいました。信頼できる建築を増やしていくと同時に、コミュニティレベルの防災力を高めることが急務であることを痛感しています。今回の地震で、多くの文化財も被災しています。日本側として何ができるのかについて、力を合わせて検討して動くこと、そしてコミュニティレベルの防災力を高めていくことが、今の私たちの仕事だと思っています」(狩野 教授)


研究の詳細はこちら<Heritage Town project (heritage-town.jp)>