性的マイノリティの若者が安心して社会に参入できるように
THU Innovations
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性的マイノリティの若者が
安心して社会に参入できるように

  • 多様な性
  • 自殺予防
  • ナラティヴ
  • 対話的実践

Sachiko
Shojima

荘島 幸子准教授

心理学科

京都大学大学院教育学研究科博士課程修了。専門は臨床心理学、生涯発達心理学、質的心理学。性的指向や性同一性が多様な人々に縦断的なインタビューを行い、性的マイノリティ者の人生や発達過程の解明を進めるほか、学校現場へのフィールドワークのなかで多様な性を扱うことが可能な文脈を現場教員とともに模索している。また、研究チームのメンバーの一員として、中学校における自殺予防プログラムの開発と効果測定にも携わっている。

性の多様性を理解するための対話的ツールの開発へ

近年、我が国においても性的指向や性同一性が多様である人々の社会的認知が進んでおり、トランスジェンダーの女子学生の受け入れを認める女子大学も出るなど、徐々に社会的承認が得られるようになっている。しかしその反面、彼らに対する差別や偏見は根深く残っており、いわゆる性的マイノリティの青年はいまだに生きづらい現状にあるのも事実だ。彼らは10代から20代前半にかけて自身の性的アイデンティティの気づきと混乱を経験し、いじめ被害や不登校の経験率、自殺未遂率が高いことが報告されている(針間・平田, 2018)。
「小・中・高等学校での対応は徐々に進んでいる一方、大学では性的マイノリティの青年に対する理解や支援体制が整備されているとは言い難い状況です。彼らは“みえない存在”であり、支援の必要性も十分に認識されていません。性的マイノリティの大学生は学内外の友人関係や恋愛関係、修学上、就職活動上の問題に直面しやすく、自殺傾向やうつ傾向、絶望感、薬物使用、摂食障害といった自殺関連行動が高い確率で生じていることからも、安心して過ごせる環境や支援が必要です」(荘島 准教授)

本研究は、性的マイノリティの若者が孤立することなく、他者との親密な関係性を持ち、肯定的な自己形成を促すことで、安心感をもって社会に参入できるようになることを目的とした実践的研究である。性の多様性を理解する根底には育ちの中で育まれた多様な価値観、ナラティヴ(物語)が存在する。専門家が一方向的に「適切」な知識を提供するのではなく、それぞれの「多様性をめぐるナラティヴ」を語り合うことが重要であると考える荘島 准教授。今目指しているのは、性の多様性を理解するための対話的ツール(カードゲーム教材)の開発だ。語り合いによって自己を内省し、他者と共生していくための寛容な態度の発達につながるのではないかと考えている。

大切なのは唯一の解ではなく、共同作業で生まれる多様な解

荘島 准教授が他者と共に対話することの重要性を感じたのは、学生と自主ゼミを行ったことがきっかけだったという。

「7名の学生と1冊の専門書を輪読し、発表、ディスカッションを行いました。例えば同性婚に対する考えや性教育のあり方、自分の中にあるジェンダーバイアスといった様々な話題について本に書かれている理論や歴史的経緯を読み解きながら、時間をかけて話し合いました。その経験から、学生もまた自分の考えや価値観を誰かと共有したいのだと気づきました。そして、唯一の解に至るのではなく、多声を重ね合わせていく共同作業によって生成される多様な解にこそ価値をおく必要があるのではないかと感じたのです。“多様な視点に基づいた社会の問題解決”を使命として、これからも社会に開かれた研究活動に全力で邁進します」(荘島 准教授)